
インタビュー
歩き始めた君たちへ
「ものづくりの旅路」と、
その道中「武蔵美で得たもの」

©️野崎航正
映像作家
長添 雅嗣
武蔵野美術大学
デザイン情報学科1期生(2003年卒業)
クリエイターとして生きていくことを決めた私たちは、どんな人生を歩んでいくのか?長いクリエイター人生の中で、この芸術祭はどんな経験になるのか?そんな漠然とした疑問に対するヒントを得るため、今回はデザイン情報学科卒業生で、YOASOBI MV/呪術廻戦1期ED/MAZDA TV CMなどを手掛ける映像監督の長添雅嗣さんに、学生時代、卒業後、クリエイター人生で得た知見の3点を軸に、お話を聞きました。
学外でも作り続けた、武蔵美時代
──映像をやり始めようと思ったきっかけはありますか?
昔から映像が好きではあったものの、作り方が分からない・ハードルが高いという印象がありました。一方で絵を描くことが好きで、1年生はグラフィック作品を多く作っていました。2年生あたりで映像系のアプリケーションが使えるようになり、自分の描いた絵が動いたら面白いと思って、動かし始めたのがきっかけです。「絵が動いたら面白い」という感性に、スキルが追いついたことで実現できました。
──芸術祭の思い出を教えてください。
「楽しいお祭り」というイメージが一番大きいです。毎年ではないですが、作品を発表したり、自分が作ったものをお客さんのいる場で展示したりした思い出があります。
──芸術祭での展示はどのような形でしたか?
有志の展示として作品を出す形が多かったです。4年間のうちで2、3回展示や発表をしたはずです。全ては覚えていないものの、基本は有志で作品発表をしていました。ゼミでの展示もありました。
──芸術祭で何度か展示をされたというお話ですが、その中で印象的な展示や取り組みはありますか?
たしか4年生の時の、9号館の地下の大きな部屋でダンス公演の舞台映像を担当したことが一番思い出深いです。コンテンポラリーダンサーが20人ほど踊り、音楽、映像、グラフィックと各々得意な表現で参加し、プロの劇団の方々と学生が一緒に舞台を作り上げるものでした。私が映像を始めて最初の大きな発表だったと思います。
──学外では、映像作品はどこで発表されていましたか?
街のギャラリーで、企画展のような形で「若いクリエイターの映像作品を出しませんか」という機会がありました。また、映像機器関連の企業が開催する映像コンテストに応募し、作品を展示させてもらうこともありました。SNSのようなものは当時なかったので、街で映像を流したり、イラストを展示したりする形で発表していました。
──授業だけではやりたいことができないという感覚はありましたか?
ありました。授業で「やりたいこと」ができるとは限らないので、授業でベストなものができなければ別の機会で出していく、という考えでした。自分で作品発表や展示の機会を作っていく大学時代の活動は、今の自分にもつながっている感覚があります。
武蔵美を出た後
人とのつながりと作品が今を形作った
──大学を卒業した直後は、どんなお仕事をされましたか?
最初はCMやMVや映画で活躍していた監督のアシスタントとして社会人になりました。師匠である監督は実写メインですが、モーショングラフィックスやCG、合成、グラフィックデザインと実写を絡ませるなど、写真以外の要素も使って映像を作ることが得意でした。学生の頃から、自分でお願いをしてアシスタントとして関わらせてもらい、最初は実写やCG、After Effectsでモーショングラフィックを作る勉強をしていました。
──映像の仕事のキャリアはどのように進みましたか?
大学卒業後、4年間師匠である監督のアシスタントをして過ごしました。現場について行ったり、撮影映像の編集をしたり、CGが必要な場合はCGを作って足したりしていました。アシスタント兼CG・モーショングラフィックデザイナーのような形です。その後、アシスタントを続ける中で映画やCM、ミュージックビデオなどいろいろな業界の方々に出会い、自分にも少しずつ仕事がもらえるようになり、経済的に独立していいと思ったタイミングで独立しました(28歳で独立)。
その後はミュージックビデオの監督としてMTVや音楽チャンネルの仕事など、音楽関係の映像を主な仕事としていました。30代の前半くらいからCMの監督も担当するようになり、いろいろな人と知り合う中で、実写の映像の中にもアニメーションのシーンを取り入れた作品を何本か作り、アニメーターとも交流が生まれたことで、アニメの仕事(オープニングやエンディングなど)をもらうようになりました。現在は実写よりアニメの方が多くなっています。
──人とのつながりが仕事に影響した具体例はありますか?
あります。1つの仕事が次の仕事につながるのは自然なことで、良い仕事をすると、そこからさらに多くの仕事につながります。また、クリエイター同士の交流で相手が成長し、別の場所で活躍するようになった後に、また一緒に制作をしようと言ってくれることもあります。自分の場合は実写からアニメへ重心が移っていった背景も、アニメーターをはじめとした、様々なクリエイターとの交流がきっかけだと思っています。
──実写中心の時期に印象的な作品はありますか?
BOOM BOOM SATELLITES(ミュージシャン)の 「KICK IT OUT」という曲のミュージックビデオが監督デビュー作、そのMVを見て仕事をもらえるようになりました。その他に、ももクロのMVが印象的でした。
──アニメの仕事もするようになってから、最初の印象的な仕事は何ですか?
「呪術廻戦」の仕事が印象的です。呪術廻戦の前にも何本かアニメを作っていましたが、呪術廻戦に携わったことで、アニメの仕事が地に足がついた感じになりました。それまでは、アニメ制作会社から時々声をかけてもらう程度だったので、呪術廻戦の仕事が大きな転機だったと思います。
──「呪術廻戦」の仕事から、現在に直接繋がっているお仕事はありますか?
呪術廻戦やチェンソーマンなどのイラスト仕事などでしょうか。映像を作るだけでなく、グラフィック制作のときにアートディレクターとして呼んでもらうことも多く、そうした仕事の広がりも、現在の活動につながっているのではないかと思います。
──アートディレクターとして声がかかったのは、どんな経緯ですか?
MAPPAさんとは付き合いが長く、映像制作だけでなくグラフィックを作る場面でもアートディレクターとして声がかかることがあります。原宿のZOZOとのコラボの仕事では、「アニメ第一クールのエンディングテイストにしてほしい」という依頼があり、自分で描いたスケッチをもとに制作するような仕事でした。
──フリーランス的に活動している中で、仕事はどのように繋がっていきますか?
自分は厳密にはフリーランスとは少し違い、自分の会社を経営しています。交流を通じて仕事を得るクリエイターもたくさんいますが、それ以上に多いのは自分が作ったものを見た方が「〇〇を拝見して…」と声をかけていただくケースです。なので、「この人にしか作れない」と思ってもらえるようにすることが大切だと思います。
今だからわかる、ムサビで得たもの
──そもそも武蔵美のデザイン情報学科を第一志望として入学しましたか?
第一志望だったとは言えません。多摩美ならグラフィックデザイン学科、武蔵美なら視覚伝達デザイン学科を第一志望としていました。しかし、その2つは受からなかったので、他の受かった学科の中で「いいな」と思い、デ情に入学したという流れです。
──「美大に行く意味」について、率直にどう考えていますか?
率直に言うと、美術大学に行かなくてもクリエイターにはなれると思っています。ただ、社会に出ていろんなクリエイターと仕事をして感じるのは、美大を出ている人は、基礎力がしっかりしているということです。絵の見た目だけでなく、企画書のような書類を見ても「デザインを分かっている」「独学ではない基礎があるのが分かる」と感じることが多く、信頼につながる感覚があります。ただ、自分が武蔵美を選んだ理由としては、当時、目の前にやりたいことがあったからです。必要だから美大に行ったという意識はなかったです。
──武蔵美で身についたものとして、交流や環境面での意義はありましたか?
あります。同期、特に同じ学科の同期にはいろいろな職種のクリエイターがいて、社会人になってからも、他職種の同級生から仕事の依頼を受けることが何度もあります。自分が映像を制作する際に音楽をつけてもらうなど、共同で作品を制作することもありますし、プロデュースする立場になった友人から仕事をもらうこともあります。こうした横のつながりも、美大に通ったからこその強みだと感じています。
──最後に、武蔵美や武蔵美に行きたい高校生に向けて、クリエイターになるため・クリエイターとして生きる上で大事なことは何ですか?
よく伝えているのは、「自分が最初に好きだと思ったモノを大事にしてほしい」ということです。生きていく中で目移りしていろいろな作品に影響されることはあると思いますが、10代の頃に受けた初期衝動はあなただけのもの、それを大事に育てていくことで個性というものが生まれる、そう思います。
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